ウェブサイトのタイ語翻訳が失敗する理由

タイ語のSEOやタイ語のGoogle Adsの依頼をいただくウェブサイトにおいて、タイ語が酷い状態で何年も放置されているウェブサイトを頻繁に目にします。正直な話、このようなウェブサイトではマーケティング施策どころではありません。まともなタイ語にするのが何よりも大事です。仮にSEOで順位を上昇させることができたとしても、結果的に企業イメージを下げるお手伝いをするだけのようなものです。

こういった酷いタイ語の状態のお客様は、初めてマーケティング施策を検討しているケースだけではありません。酷いタイ語の状態で既に何年もタイ語のマーケティング施策を行ってきており「なかなか効果が出ない」ということで当社へと依頼があることも多くあります。

多くの場合、タイ語の分からない日本人責任者が担当し、社内のタイ人、または社外の翻訳会社に翻訳を依頼し、タイ語を作成したというケースです。日本人責任者がタイ語を深く理解できていれば、このようなケースは避けられるのは確かです。しかし、実際にはそのような人材はほぼ見つけられないと思いますし、それが当然です。

翻訳の元となる文章は日本語である場合が多いです。複数言語でグローバルにサービス展開をしようとしている企業で、まず日本語を英語に翻訳してから、その英語を元にタイ語を含む様々な言語へと翻訳していくケースもあります。

このような、ウェブサイトのタイ語に大きな問題を抱えるお客様にヒアリングを行った結果、問題の原因がいくつか類型化できたため、以下にまとめてみました。

(1)翻訳者がウェブサイトを見ずに翻訳している

以下のようなステップで行われているケースです。
・日本語でウェブサイトを作成
・翻訳の必要なメニュー、バナー内のテキスト等を整理してエクセルに入れ込む
・エクセルだけで翻訳を依頼。翻訳者はウェブサイトを確認することなく納品

ウェブサイトのどこで使われるものかということを理解した上で翻訳を行わないと、その単語を翻訳しただけではウェブサイトに適したタイ語はできません。これは業務システムの翻訳でも同じです。また、ウェブサイトには「一般的にはあまり使われないが、ウェブサイト上では好んで使われる言葉」があります。そのあたりはウェブサイトの画面を見たら一発で理解できるのですが、エクセルを渡されただけでは想像できないことが多いです。

このケースにおいては、以下のような対策が考えられます。
・発注前に翻訳しにくい日本語になっていないかを確認する
・発注時のエクセルにウェブサイト内のどこで使われるタイ語かの補足をつける
・翻訳者にウェブサイトを見ながら翻訳作業をしてもらう

(2)文章の堅さ、柔らかさの指定をしていない

ビジネス文書の翻訳にはトンマナの指定は不要です。基本的に硬めの文章で正式な言葉を使って書くと決まっているからです。ただし、ウェブサイト上の文章はそれこそ表現の堅さ、柔らかさが千差万別です。

ビシっとした誠実な雰囲気を出したい士業のウェブサイトと、ポップでクリエイティブなイメージを喚起させたいデザイン事務所のウェブサイトで使われる日本語が違うように、そのタイ語も違います。翻訳依頼時にトンマナの指定を行われていない結果、固くあるべきところで柔らかい文章が使われたり、またその逆のようなタイ語になってしまっていることがあります。

複数の翻訳者が協力してウェブサイトの翻訳をしているケースにおいて、ページによって文章の硬さが違うような状態になってしまっていることもよくあります。思い通りの文章の堅さになっていないのは翻訳発注側の指示不足に起因するとして、ページによって文章の堅さがバラバラのまま納品されるのは明らかに翻訳業者側の責任です。ただし、それを見抜けるような体制を発注側の社内に持っておくことが必要です。文章の硬さの確認に関しては、能力としては一般的なタイ人でも可能です。

これらに関して「プロなんだから翻訳者で対応してくれよ」と思う気持ちも理解できます。しかし、タイ人翻訳者に限らずタイ人は、指示された仕事しかしない傾向が強く、それを責めることは難しいです。完全に翻訳会社/翻訳者側に起因する問題が多々あることも事実です。そうだとしても、その確認体制を持たず、酷いタイ語のままウェブサイトを公開し、失った信頼は返ってきません。

(3)サイト内のペルソナの性別を指定していない

タイ語は口語の文章であれば、男女で語尾が変わります。男性であれば語尾に「ครับ(カップ)」、女性であれば語尾に「คะ(カ)」が付きます。女性の言葉の方が柔らかい印象を受けるため、タイにあるウェブサイト全体でみると、女性の言葉でウェブサイト内の文章が書かれていることが多いです。AIやチャットの回答も多くは女性系です。稀に、プロフェッショナルなイメージを与えるために敢えて男性の語尾が採用されているケースもあります。

「男性系のカップ」「女性系のカ」のどちらを採用しても問題ありませんが、ウェブサイト内で語尾を統一する必要はあります。発注側から納品物の語尾に関して男性系/女性系の指定のないまま翻訳依頼を受けた翻訳者は自分で判断してどちらかにするか、もしくは語尾をつけなくていいような非常に硬い文章にして納品します。その結果、ウェブサイト内のタイ語の文章が不自然になることになります。

複数の翻訳者がいる上に指示が無い場合は、ページごとに男女が入れ替わったり、酷い場合はひとつの文章の中に男女が複数存在するような文章になっていることもあります。

(4)「通訳」に「翻訳」させている

クライアント企業にタイ人通訳が在籍しており、タイ人通訳の空いている時間にウェブサイトの翻訳をお願いしているケースがあります。これはタイ語化失敗の大きな原因のひとつです。

「通訳に必要なスキル」と「翻訳に必要なスキル」は違います。どちらも「言語能力」は必要ですが、言語能力だけではどちらの仕事もできません。翻訳に関しては国語力(文章力)が必要です。日本人なら誰でも日本語を流暢に話すことができますが、全ての日本人が綺麗な文章を書けるわけではありません。それと同じで、ただ単に「日本語ができるタイ人(=タイ人通訳)」に翻訳させても、成果物としてのタイ語の文章は綺麗なものになるとは限りません。

通訳にはヒアリング能力が不可欠です。特に同時通訳は、翻訳の場合のようにじっくりと腰を落ち着けて自分のペースで文章を読むことはできません。通訳対象者の発言を整理する能力に加えて、それら全てを素早く行うスキルが必要です。そして、基本的には一発勝負です。誤解を恐れずに言えば、翻訳作業は作業時間が読めませんが、1時間の講演の通訳であれば必ず1時間で終わります。

このように異なるスキルが必要な「通訳」と「翻訳」ですので、通訳者に翻訳をお願いするということはウェブサイトのタイ語翻訳が失敗する大きな理由のひとつとなります。

(5)「翻訳者」は「ライター」ではない

通訳と翻訳の違いの他に「翻訳者」と「ライター」の違いも理解する必要があります。小説などの翻訳者(翻訳家)は別として、一般的な翻訳者の仕事はあくまで「翻訳」です。翻訳の仕事は「外国語の文章を、他の国の文章に変換し、理解できるようにすること」です。意味不明な文章は成果物として認められませんが、それが美しく、キャッチーな文章である必要まではありません。理解できればよいのです。魅力的な文章を作るのは「ライター」の仕事です。

例えば翻訳対象が会社のスローガンのようなものであれば、一般の翻訳者にはそれをタイ語化するスキルはありませんし、それができないことは翻訳者の責任でもありません。

(6)翻訳者の専門性の問題

製造業などの専門性の高いウェブサイトで、日本語からタイ語へと文章を翻訳したものに多く見られます。専門用語が多く使われた日本語は、同じ業界人でない限りは日本人同士でも通じません。それを、「一般的な」タイ人翻訳者に一任しても、適切なタイ語にはなりません。たまたま、お客様の専門用語に精通した通訳が見つかれば最高ですが、その望みは非常に薄いです。解決策としては、発注側のタイ人営業に協力を仰ぐことです。専門用語を知っているのは営業マンだからです。

繰り返しになりますが、タイ人は自分の仕事以外を手伝うことを嫌う傾向があるため、タイ人営業にお願いしても協力はなかなか得られません。ここは、インセンティブを与える、他の仕事を一時的にしなくていいとする、社長命令で強引に進めるなどの方法で協力を仰ぐ必要があります。

(7)発注側にタイ語を確認できる人材がいない

タイ法人を設立せずに、ウェブサービスやモバイルアプリなどをタイ語化することでタイに進出しようとするケースに多く見られました。最近は越境ECサイトなどでもよく見られます。翻訳を行ったとしてもそれを確認できる人材もおらず、運良く問題の無い翻訳が行えたとしても、そのレベルをキープし続けることは難しいです。

(8)クライアント企業側のタイ語を確認する担当者にやる気がない

「やる気がない」と言うものの、既に述べた通り、タイでは自分の仕事以外は手伝わないのが一般的です。タイでは転職が当たり前のため、会社に対するロイヤルティも低く、自社のウェブサイトのタイ語が無茶苦茶であることを気にする従業員はほぼ居ないと思ったほうがいいと思います。

(9)日本人責任者の聞き方に問題がある

例えば、酷いタイ語でウェブサイトが完成した際に「何か問題あったら教えてください」という言い方で、タイ語を確認する担当者に質問すると「特に問題はない」という回答が必ず帰ってきます。これは「問題」という言葉の定義が違うからです。日本人にとって「誤字脱字があること」は「問題あり」です。タイ人にとっては別にクレームが来るような文章でないし、頑張れば分かるのであれば「問題ない」となるためです。

これは質問方法を変えることで問題を軽減することができます。例えば「このタイ語に誤字脱字はありませんか?」「口語表現が使われているような部分はありませんか?」のように具体的な質問をしてみる、というような方法です。

(10)「全国」という日本語を何と翻訳するのが正解か

「全国に10店舗ある」という日本語は正確には「日本全国に10店舗ある」という翻訳を行わないといけません。ただし、もともとの文章に「日本」という文章はないので、「日本」を追加するべきかどうかは翻訳者の判断となります。特別な指示が発注側からなければ、タイ人は追加はません。結果、「全国に10店舗ある」という言葉は「タイ全土に10店舗ある」という意味を持つことになり、文章の意味が通じなくなります。

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H1 コンテンツ制作チーム

「タイ語」「タイの文化」「タイのビジネス環境」と「製造業」「IT(IoT)」に特化した深い専門知識を有しています。ネイティブレベルでコミュニケーション可能なタイ語を元にタイ文化に精通したローカライズ、タイ市場に精通したマーケティング戦略を通じて、お客様のビジネス拡大をサポートします。 タイのビジネス環境に適した、IT技術をもってDX化推進をサポートします。